生活習慣病と戦う日本人
過去80年の間に私たちの生活にどんな変化が起きたでしょうか?
戦中・戦後の混乱期、国民の食糧事情は極めて悪い状態でした。危機感を抱いた厚生省は全国の保健所に栄養士を配置して、国民の栄養状況を調査して、不足する栄養をどうしたら補うことができるか、行政栄養士として日夜努力してきました。主に、戦後の栄養欠乏を解消するための仕事をしていたのでした。
それに比べて現在は「飽食の時代」と呼ばれています。
この間に日本人の胃袋のサイズが大きくなった訳ではありません。摂取カロリーはどうかというと、様々な報告があります。ほとんど変わらないというものから、増えても5~10%程度であろうとも言われています。しかし、脂質の摂取量は確実に増えています。報告にもよりますが、概ね10%から30%増えています。
さらに追い打ちをかけるのが、運動不足が広がったことです。
世の中が便利になって、身体の活動量は確実に減りました。運動によりカロリー消費は、20%は減少したと推定されています。公共移動機関が発達し、自家用車が普及し、車社会に変化しました。その結果、国民の歩行数は激減しました。また、洗濯機や掃除機、冷蔵庫などの家電製品が進化して、買い物の回数も含め家事労働が大幅に減りました。
その結果、多くの日本人が肥満、2型糖尿病、脂質異常症やメタボリックシンドロームといった生活習慣病と闘う時代になったのです。これらの疾患はすべて「糖化ストレス」が強い状態、すなわち体内にアルデヒドが過剰に発生する状態なのです。
糖化ストレス関連疾患の近年の推移を見てみましょう。
2型糖尿病患者数は、1997年は700万人でしたが、その後も増加が続き、2016年には1,000万人を超えました。一時は、糖尿病の可能性を否定できない予備群も考慮すると、その数は2,000万人以上と推定されました。2018年度厚生労働白書によると、2型糖尿病の患者数や合併症の増加がようやく頭打ちになったようです。HbA1c 8.4%以上の人の割合もピーク時(1.2%)よりも低下し、0.93~0.94%を保っています。糖質管理については、ある程度、功を奏しているのかもしれません。
資料:厚生労働省健康局「平成28年国民健康・栄養調査」より厚生労働省政策統括官付政策評価官室作成
(注)1.性別・年齢階級別の「糖尿病が強く疑われる者」の割合と「糖尿病の可能性を否定できない者」の割合に、それぞれ総務省
統計局「人口推計(2018年10月1日現在)」の性別・年齢階級別の全国人口を乗じて全国推計値を算出し、合計した。
2.割合は全国補正値であり、単なる人数比とは異なる。「平成28年国民健康・栄養調査」報告書p.8参照
3.身体状況調査においてヘモグロビンA1c値を測定し、身体状況調査の問診において「(7)これまでに医療機関や健診で糖尿病といわれたことの有無」、「(7-1)現在糖尿病の治療の有無」、「(6)(c)インスリン注射または血糖を下げる薬の服薬状況のすべてに回答した者を集計対象とした。
4.判定基準は「平成28年国民健康・栄養調査」報告書p.16参照
*「服薬者」とは、身体状況調査票の問診(6)(c) 「インスリン注射又は血糖を下げる薬の使用の有無」に「有」と回答した者
*「糖尿病が強く疑われる人」の判定
ヘモグロビンA1cの測定値があり、身体状況調査票(6)(c)及び(7)に回答した者のうち、ヘモグロビンA1c(NGSP)の値が6.5%以上、または、身体状況調査票の(7-1)「現在、糖尿病治療の有無」に「1 有」と回答した者
「糖尿病の可能性を否定できない人」の判定
ヘモグロビンA1cの測定値がある者のうち、ヘモグロビンA1c(NGSP)値が6.0%以上、6.5%未満で、“糖尿病が強く疑われる人”以外の人
厚生労働省. 平成28年国民健康調査・栄養調査. 糖尿病患者数の状況.
https://www.mhlw.go.jp/stf/wp/hakusyo/kousei/18/backdata/01-01-02-08.html
https://seikatsusyukanbyo.com/statistics/2023/010715.php
一方、脂質管理の方はどうでしょうか。40~74歳の日本人では、内臓脂肪の蓄積が多いメタボリックシンドローム(予備軍を含む)は男性の2人に1人、女性の5人に1人と推定されています(2006年国民健康栄養調査結果)。その後も増加の一途をたどっています。「糖質」の管理はしっかりしてきたけれど、現代人はあきらかに「油」(脂質)を取り過ぎていると言えます(2023年版厚生労働白書)。
平成16年 国民健康・栄養調査結果の概要
~メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)の状況を中心に~(厚生労働省 平成18年)
毎日新聞医療プレミア2024年9月21日記事。米井嘉一「老化をもたらす栄養素って? 糖質とのダブルパンチで認知症や脂肪性肝炎のリスクも」。厚生労働省. 2023年版厚労白書
https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/kousei/22-2/dl/02.pdf